HOME > 研究内容

研究内容

 近年、固体に光を照射することにより、固体の電子構造や結晶構造ががらりと変化する現象が様々な物質で見出されています。この現象は、光誘起相転移と呼ばれており、固体物性、特に、非平衡物理学の新しいパラダイムとして、また、次世代の超高速光スイッチや光メモリの動作原理として注目を集めています。本研究室では、これまでに、光照射によって、絶縁体が金属に変化する現象“光誘起絶縁体-金属転移”や、非磁性物質が磁石になる現象“光誘起反強磁性―強磁性転移”、常誘電体が強誘電体になる現象“光誘起常誘電―強誘電転移”、などを見出してきました。遷移金属化合物や有機分子性物質に超短パルスレーザー光や強電場パルス光を照射すれば、光や電場を摂動として扱う通常の枠組みでは取り扱うことができない非平衡の電子構造変化や超高速の電子相転移を実現できる可能性があるのです。本研究室では、自ら開発した紫外からテラヘルツ領域に渡る最先端の超短パルスレーザーを用いた時間分解分光や、世界最高水準の高強度テラヘルツパルスを励起光に用いた広帯域時間分光を駆使して、様々な機能性電子材料(強相関電子系を有する遷移金属酸化物やカルコゲン化物、低次元電子系を有する有機分子性半導体や強誘電体等)において、光誘起相転移をはじめとする新しいフォトニクス機能の開拓とその物理的機構の解明を行っています。2016年度から、科学技術振興機構の戦略的創造研究プロジェクト(CREST)において、理論グループと協力し、光励起によって生じる非平衡の電荷やスピンのダイナミクスを新しい情報科学的手法を取り入れた数値計算によって解明する研究も開始しています。
 また、上記の研究と平行して、典型的な有機・無機半導体のキャリアダイナミクスの分光研究も行なっています。具体的には、半導体の単結晶や微結晶試料に光ポンプ―広帯域テラヘルツプローブ分光を適用し、光キャリアの移動度を非接触で評価するとともにその散乱機構を解明する研究、半導体電界効果トランジスタに電荷変調テラヘルツ分光を適用し、電界誘起キャリアの移動度の評価とその制限要因の解明に関する研究、を行っています。本研究は、2016年度から開始された産業技術総合研究所との共同プロジェクト(先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ)により進めています。

研究項目
全光型超高速光スイッチ
光誘起相転移
光誘起強磁性
電子・スピン・格子ダイナミクスの直接観測
高強度テラヘルツパルスによる物性制御
テラヘルツイメージング
位相制御中赤外パルスによる電子構造・物性の超高速制御
半導体及びトランジスタのキャリアダイナミクスの分光研究






 詳細(2015年版)はこちらをご覧ください
  (PDF(2015年)はこちら)

全光型超高速光スイッチ

 次世代の超高速光通信を実現するには、光だけを使って1ピコ秒以下の間隔で光のオン・オフを行う技術(光ゲート)や、光の経路を変化させる技術(光ルーター)が必要です。物質がこれらの機能を発現するためには、「三次の非線形光学効果」と呼ばれる性質が必要です。本研究室では、低次元強相関電子系を有する遷移金属化合物を対象として、大きな三次の非線形光学効果を持ち高速の光応答を示す物質の探索、その機構解明、光スイッチ素子への応用の研究を行っています。

Appl. Phys. Lett. 102, 091104 (2013).
Adv. Mater. 19, 2707 (2007).
Phys. Rev. Lett. 95, 087401 (2005).
Phys. Rev. Lett. 94, 047404 (2005).
Phys. Rev. B 70, 085101 (2004).
Phys. Rev. Lett. 87, 177401 (2001).
Nature 405, 929 (2000).

光誘起金属化

 固体に光を照射することにより、固体の電子構造や結晶構造ががらりと変化する現象(光誘起相転移)は、固体物性、特に、非平衡物理学の新しいパラダイムとして、また、次世代の超高速光スイッチや光メモリの動作原理として注目を集めています。
この光誘起相転移を光スイッチに応用する場合には、この相転移をいかに小さな光強度でいかに高速に生じさせることができるか、さらに、いかに高速にその変化がもとに戻るか、が鍵となります。そのような観点から注目を集めている物質群が、電子間のクーロン相互作用が電子状態を支配している強相関電子系です。強相関電子系では、光照射によって生じた光キャリアが、電子間の強い相互作用を通して周りの電子、スピンを瞬時に変化させることにより、超高速かつ高効率の相転移の実現が期待できます。その典型例が、光照射によってモット絶縁体が金属に転移する現象“光誘起モット絶縁体―金属転移”です。本研究室では、様々な物質群でこのモット絶縁体―金属転移をはじめとする超高速光誘起相転移を探索し、その物理的機構の解明を行っています。

J. Phys. Soc. Jpn. 91, 023701 (2022).
Phys. Rev. B 91, 245140 (2015).
Phys. Rev. B 91, 081114(R) (2015).
Phys. Rev. Lett.113, 096403 (2014).
Phys. Rev. B 83, 125102 (2011).
Phys. Rev. B82, 060513(R) (2010).
Phys. Rev. Lett. 98, 037401 (2007).
Phys. Rev. Lett. 91, 057401 (2003).

     

光誘起強磁性

 次世代の磁気記憶媒体や光磁気デバイスを実現するために、光によって高速に磁化が変化する現象を開拓することが望まれています。強相関電子系物質は、この光磁気機能材料としても注目されています。例えば、ペロブスカイト型マンガン酸化物では、組成の変化を通してフィリングやバンド幅を制御することによって、電荷・スピン・軌道の自由度が絡み合った様々な特徴的電子相(常磁性半導体相、強磁性金属相、反強磁性電荷秩序絶縁体相)を生み出すことができます。本研究室では、このマンガン酸化物やその他の磁性体において、光照射によって高速に強磁性磁化が生じる現象“光誘起強磁性”の探索とその機構解明を行っています。

Phys. Rev. Lett. 116, 076402 (2016).
Phys. Rev. B 84, 045114 (2011).
Phys. Rev. B 83, 165408 (2011).
Phys. Rev. B 77, 094410 (2008).
Phys. Rev. Lett. 99, 207401 (2007).
Phys. Rev. Lett. 98, 017402 (2007).

電子・スピン・格子ダイナミクスの直接観測

 光誘起相転移の研究では、光で励起される初期電子励起状態から、電子状態、スピン配列、結晶構造が異なる光誘起相へ、時々刻々とどのように変化していくか、を検出することが重要です。その情報から、光誘起相転移の機構を解明すると同時に、物質の中での様々な相互作用の役割を明らかにすることができます。光励起直後から生じるそのような電子・スピン・格子系の変化を実時間で検出するには、それぞれの自由度の運動の時間スケールと同程度の時間分解能が必要となります。特に、電子の運動を実時間で観測するには、非常に高い時間分解能が必要です。このために、非同軸パラメトリックアンプを作製し、6.5から15フェムト秒(1フェムト秒=10-15秒)の時間幅の極短パルス光を使った超高時間分解能のポンプープローブ分光測定を行っています。

Nature Commun 9, 3948(2018).
Crystals 7, 132 (2017).
Nat. Commun. 9, 3948 (2018).
Phys. Rev. Lett. 115, 187401 (2016).
Phys. Rev. Lett. 111, 187801 (2013).
Nature Phys. 7, 114 (2011).
Phys. Rev. Lett. 105, 258302 (2010).
Phys. Rev. Lett. 96, 057403 (2006).
Phys. Rev. Lett. 94, 087202 (2005).
Phys. Rev. B 70, 165202 (2004).
Phys. Rev. Lett. 88, 057402 (2002
).

高強度テラヘルツパルスによる物性制御

 テラヘルツパルスとは、周期が0.1ピコ秒から1ピコ秒の単一サイクルから数サイクルの電磁場パルスのことです。最近、このテラヘルツパルスを、物質の電子状態を制御するための励起(ポンプ)光として用いることによって、新しい高速スイッチング現象や相転移現象を発現させようという試みが注目されています。本研究室では、近赤外域のフェムト秒レーザーパルスを整形して無機非線形光学結晶に入射するパルス面傾斜法や、有機非線形光学結晶を用いた新しい手法によって、電場強度が2 MV/cmを超える高強度テラヘルツパルスの発生に成功しています。この電場は、空気の絶縁破壊の閾値(35 kV/cm)を遥かに超える強電場のパルスです。この高強度テラヘルツパルスを用いて、電子型強誘電体の高速分極変調やドメイン壁の駆動による分極生成、モット絶縁体における三次の非線形光学効果を利用した高速光スイッチの研究を進めています。最近では、量子トンネル効果によるキャリア生成をきっかけとした新しい電場誘起絶縁体-金属転移の実現に成功しました。

Nature Commun. 12, 953(2021).      Phys. Rev. B 103, 045124(2021).
J. Phys. Soc. Jpn. 90, 033703(2021).   Phys. Rev. B 104, 195148(2021).
Commun. Phys. 2, 131 (2019).       Sci. Adv. 5, eaav2187 (2019).
Appl. Phys. Lett. 114, 062402 (2019).   Sci. Rep. 8, 15014 (2018).
J. Phys. B: At. Mol. Opt. Phys. 51, 162001 (2018).
Sci. Rep. 8, 6901(2018).          Nature Mater. 16, 1100 (2017).
Appl. Phys. Exp. 10, 122701 (2017).   Phys. Rev. Lett. 118, 107602 (2017).
Scientific Reports 6, 20571 (2016).   Nat. Commun. 4, 2586 (2013).

テラヘルツイメージング

 強誘電体や強磁性体では、外部電場や外部磁場がなくても巨視的な分極や磁化が生じます。しかし、多くの場合、試料内には試料全体のエネルギーを最小にするために、分極や磁化の方向が互いに異なる微視的なドメインが形成されます。強誘電体や強磁性体を記憶デバイスに応用するには、ドメイン構造と、外場によるドメイン構造の変化を高い空間分解能で検出することが重要です。本研究室では、分極や磁化の方向を直接検知することができる新たなドメイン構造観測手法として、テラヘルツ電磁波発生を利用したイメージング法を開発し、強誘電体や強磁性体のドメイン構造の可視化を行っています。
 
Phys. Rev. Applied 14,054002 (2020).
Phys. Rev. Lett. 124,057402 (2020).
Phys. Rev. B 97,161104(R) (2018).
Phys. Rev. A 98,013843 (2018).
Phys. Rev. B 95, 241102(R) (2017).
ACS Photonics 3, 1170 (2016).
ACS Photonics 2, 1373 (2015).
Appl. Phys. Lett. 105, 041101 (2014).
Jpn. J. Appl. Phys. 53, 09PD08 (2014).
Phys. Rev. B 80, 205201 (2009).


位相制御中赤外パルスによる電子構造・物性の超高速制御

  物質の電子構造や物性を制御する光として、中赤外パルスを使う研究も行われるようになってきました。中赤外パルスは、 通常は、(a)図上部の赤線のようにマルチサイクルのパルスとして得られます。 この中赤外パルスでは、10 MV/cm以上の極めて高い電場振幅が得られるため、超強電場の効果を調べられる他、特定の分子振動や格子振動を励起することによる相転移や、 マルチサイクルパルスの周期外場によって生じるフロッケ状態等の新しい非線形励起状態の観測のための最適な光となります。 中赤外パルスを励起に用いたとき、その振動電場にそった物質の応答を検出する分光(サブサイクル分光)測定を行うには、中赤外光の周期(0.1 eVの光の場合、約40 fs)よりも 十分に短い10 fs以下の時間幅の極短パルスをプローブ光とする必要があります。また、中赤外光の位相を長時間に亘り安定化することも不可欠です。 本研究室では、ダブルフィードバック機構と呼ばれる新しい技術によって位相を安定化した中赤外パルスと7 fsの時間幅の可視パルスを使ったサブサイクル分光測定系を構築し、 分子振動励起によるイオン性→中性転移(右図)を観測しました。また、モット絶縁体において、中赤外周期外場によるフォノンドレスト状態の観測にも成功しています。

Communications Physics 5, 72 (2022).
Phys. Rev. Research 3, L042028 (2021).
AIP Advances
10, 025311 (2020).
Appl. Phys. Express
10, 122701 (2017).

半導体及びトランジスタのキャリアダイナミクスの分光研究

 半導体中のキャリアの伝導機構を明らかにするには、光励起によって生じるキャリアの光学応答を可視光ポンプー赤外・テラヘルツプローブ分光を使って調べるのが有効です。本研究室では、様々な無機半導体(シリコン、チタン酸化物等)、有機半導体(ルブレン、C10-DNBDT等)の光キャリアダイナミクスを測定し、その伝導機構やキャリア散乱機構の解明を行っています(図右)。結晶粒界や構造乱れによる後方散乱の寄与を考慮することによって、多結晶試料においても物質固有の移動度を評価できることを明らかにしました。また、有機トランジスタにおいて電界により誘起されるキャリアの挙動を、赤外顕微分光によって調べる研究も進めています(図左)。

Appl. Phys. Lett. 120,053302 (2022).
Phys. Rev. B 102,245201 (2020).
Appl. Phys. Lett. 115, 143301 (2019).
Phys. Rev. B 94, 041113(R) (2016)
Phys. Rev. B 91, 241201(R) (2015).
J. Appl. Phys.115, 053514 (2014).
Appl. Phys. Lett. 105, 143302 (2014).
Appl. Phys. Lett. 102, 093301 (2013).
Phys. Rev. Lett. 109, 097403 (2012).
Phys. Rev. B 83, 075204 (2011).

▲ページトップに戻る